ルワンダの悲劇を癒やす
新しい和解法を構築
- 心理学者/サイモンフレイザー大学 助教授
- 南 昌廣 さん
- 短期大学 英語科 1996年度卒業(2007年、英語科からキャリア英語科に改称)
家族を殺した人を、赦(ゆる)せますか?
1994年、アフリカのルワンダ共和国で起こった大量虐殺事件をご存知でしょうか。民族対立をきっかけとしたこの事件は、親戚や友人など、身近な人が殺し合う「親密な虐殺」でした。国中で虐殺が繰り広げられ、約100日で80~100万人が殺されたと言われています。その後、国の政策により虐殺犯は釈放され、故郷の村に戻ることに。加害者と被害者家族が、再び同じコミュニティに暮らすことになったのです。
平和を取り戻すためには、彼らの心理的和解が不可欠です。それまでの心理学では、加害者が自分の罪を被害者に認め、赦しを乞い、赦されたペアのみ心理的和解がなされたとする「赦し」をベースとした和解法が中心でした。しかし、目の前で家族を殺された被害者家族は赦せる気持ちにならないし、赦せない自分にも苦悩する。限界を打破するために、「行動」をベースとした新しい和解法を構築しました。「赦せる・赦せないはそのままに、共にできることをやる」を基本概念とし、農作物の収穫やレンガ作りなどの日常作業を一緒に行います。
次第に彼らの表情が穏やかになり、普通の会話を楽しむなどの変化が現れました。加害者には心の洗浄体験や償える喜びが、被害者家族には、赦したいという気持ちや愛着が芽生えました。恐怖感や不信感が消え、互いが互いを癒やす医者となったのです。その後、他の村人から「参加したい」という問い合わせが殺到。村の和解活動として定着し、他の村へも広がり始めました。
視野が広がったカナダ留学
英語にのめり込んだのは、中学時代に出会った英会話のアメリカ人先生ともっと深い話をしたいと思ったから。京都で生まれ育ったので、京都の大学で英語を極めたいと思い、短大に入学しました。一番の思い出は、カナダ・ダグラスカレッジへの夏期英語研修です。初めての海外渡航はすべてが新鮮な体験で、いっきに視野が広がりました。卒業後はダグラスカレッジ、サイモンフレイザー大学を経て、ブリティッシュ・コロンビア大学大学院で心理学の博士号を取得しました。
心理学で、世界平和を
大学院進学が決まった2009年、DVなど家族間の問題の解決をサポートする家庭仲裁士として働いていました。様々な家族と接するうちに、もっとハードな状況である戦争を生き抜いた人の気持ちを知りたいという思いが生まれたんです。入学までの3か月半、バックパックで22カ国の旧戦地や紛争地を訪れ、220人以上の戦争体験者から話を聞くことができました。特に強く印象に残ったのがルワンダ。心の傷を癒やす手伝いをしたいと、大学院での研究テーマに選びました。
現在も定期的にルワンダを訪れ、世界初のエビデンス(証拠)に基づく平和構築法とするために研究を続けています。心理的和解を必要とする国は他にもたくさんあります。いずれは国際機関と連携して、世界中にこの和解法を広めたい。忙しく走り回る日々ですが、一歩ずつ目標に近づいていると実感しています。