京都外国語大学・京都外国語短期大学

気になることはとことん追求
常に好奇心のアンテナを

  • 外国語学部 教養教育
  • 樋口 穣 教授
  • 2018.05.17

北斎の「赤富士」、尖りすぎだと思いませんか?

江戸時代後期の絵師、葛飾北斎の「凱風快晴」、通称「赤富士」。現物の富士山と比べると、山頂がぐっと尖っていることが気になりました。そこで、河口湖方面から見た富士山の写真をコンピュータグラフィックで処理して、横幅を2分の1にしてみたんです。すると、北斎の富士のシルエットとぴったり重なりました。実は、北斎以前にもこの様なプロポーションで富士を描いた画家はいました。名所としての富士を表現するためには、三保の松原や愛鷹山などの〝脇役〞、これを私は〝景物テキスト〞という新語を創って呼んでいますが、それが描き込まれていなければならない、という制約もあったのでしょうね。でも、北斎の「赤富士」には〝景物テキスト〞はありません。先人が残したプロポーションを受け継ぎながら、いわば数学的にデザインを洗練させていったと考えられます。

もう一つの研究テーマ、観光絵葉書

たとえば、『京都堀川』という一枚。これが堀川のどこか、気になりません? 京都は、大きな神社仏閣の風景は昔も今もそんなに大きくは変わっていませんが、大正時代のこの写真に当てはまる場所が全く特定できない。実は、これをモチーフにして研究会発表をすることになっていたのですが、前日になっても手がかりがなく、〝分かりませんでした〞と発表するしかない、と思っていました。発見のきっかけになったのは、写真に写り込んでいる子どもの着物。左前になっている!これはもしや裏焼きでは? 拡大して詳細に調べてみると、看板の文字も反転していることが分かりました。裏焼き画像をもとに推理していくと、西本願寺の南側、『都名所図会』にも『芹根の水』として紹介されている場所だと分かったんです。さっそく現地に行って写真を撮って、何とか発表に間に合いました。

当時の絵葉書と現在の様子を1枚の画像にしたもの

作品を見たときの「気づき」を大切に

北斎の絵にしても、絵葉書にしても、それを見たときに、あれ?と引っかかるかどうか。何か気になる、そのことをいつも頭の片隅にとどめておくようにしています。それがどんどん溜まっていくと、ある日それらが結びついてすっきりした論理が導かれるのです。研究の楽しさって、そういうことじゃないでしょうか。現代の私たちが、知らず知らずのうちにとらわれているものから自由になること。文化を研究することは、自分の目で見て、自分の頭で考える力を身につけることです。学生の皆さんには、せっかく京都の大学に通っているんですから。毎日の通学路の風景にだって、考えるヒントは山のように転がっています。自分の目と、頭と、それから足を使って学問しましょう。

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