「お母さんだって学びたい」
男の子3人育て、2カ国語マスター
- 本学非常勤講師
- 巻下 由紀子 さん
- 大学院 博士前期課程 2014年度修了
結婚を契機に、語学の道
桜の花びらが、心地よい風に誘われて舞う中、新学期は始まります。本学での担当科目は英語と中国語、日本語。春休み明け、教え子の女子学生から「先生ッ、久しぶりぃ」と声を掛けられ、思わずハイタッチ。授業開始の直前、教室で準備をしていると、男子学生がぼそぼそとした口調で、相談を持ち掛けてきたりします。例えば、2年次生対象の第2外国語・中国語の授業。始まると、「春休みで中国語忘れていない?」「1回生でちゃんと習ったやろ。ほんまに」とついつい、関西弁を連発。自分の子どもと年の近い学生に、特に構えることもなく、思ったことをポンポン言ってしまう。それが、まるで親から言われているように感じているのかもしれません。学生に「お母さんみたい」と言われることが多いんですよ。
中国語を指導する様子
大学は経済学部に在籍、卒業後、ある企業の秘書室に勤務しました。3年目に結婚。翌年、英語の研究者だった義父が研究のため渡英することになったのを機に、私も退職し、夫を日本に残して、義理の両親と一緒にロンドンに行くことにしました。2か月間の短期留学でしたが、これが、高校時代から興味のあった語学の道へ進む転機となりました。
子育てしながら、英語から中国語へ
英語を学ぶにしても、目標が必要です。帰国後、しばらくして一念発起、通訳になろうと通訳養成学校に通いました。養成学校で学んだ3年間のうちに長男が生まれ、その長男が1歳になったころ、通訳の仕事が入りはじめました。
軌道に乗り始めたころ、夫の転勤で家族3人、台湾・台北に行くことに。出発前日には、2人目の子を宿していることもわかりました。私の思いは「せっかく通訳になれたのに」ではなく、「中国語を身につける絶好のチャンス!」。台北では、慣れない土地で子育てをしながら、次第に大きくなっていくお腹を抱えつつ、国立台湾師範大学付属の国語教育センターに通い、中国語を一から学びました。二男の出産後は、自宅に家庭教師を呼んで、あやしながら勉強したことも。2年間の滞在が終わるころには、不自由なく会話ができるようになりました。
いったん、帰国して三男を出産。2年たったころ、夫の転勤で再び、家族5人で台北生活。私は中国語のレベルアップを目指し、東呉大学大学院に入学、MBA(経営修士号)を取得するコースを専攻しました。子育てしながらの大学院生としての生活は、本当に大変でした。先生や親子ほど年の離れた学生の助けを借り、授業についていく毎日。大学院2年目に入る前、帰国しましたが、私にとっては大きな意味のある一年でした。
2回目の台湾滞在を終え、息子や現地大学院の同級生と
「学びを止めるな!」と伝えたい
日本に戻って、勉学を続けるために、本学の大学院に入学しました。中国人留学生の若者たちにまじり、互いの言語で教えあい、自分の子どもを交えた交流も。若返ったつもりで楽しい時間を過ごしながら、彭飛先生の指導のもと、中国語形容詞をテーマにした論文で、修士号を取得しました。
本学大学院の修了式で
今は、大学と専門学校合わせて11コマの授業を担当。留学生に日本語も教えており、3カ国語を駆使しています。若いときには思ってもいませんでしたが、その時々で、全力で取り組んだことが、今の自分につながっていると思います。いつかは博士論文に挑戦したいと思っています。
「点と点は、やがてつながる」。14年前、スティーブ・ジョブズが米国の大学卒業式で行った演説での言葉が大好きです。目の前にあることに、目的意識や興味を持って取り組めば、「点」として残る。いずれ人生のどこかで別の「点」とつながり、実を結ぶだろうということです。教え子が、卒業していつか「ああ、あの時やったことが役に立った!」と振り返ってくれたら、これほど、うれしいことはありませんね。