感謝の心込め、日本語学校を設立
孤独な留学を乗り越えて
- 中国・厦門市で、日本語学校を経営
- 郭 芳菲 さん
- 大学院 博士前期課程2012年度修了
人生決めた、大学受験
大学から来た、合格通知。
私が合格したのは、語学大学の日本語学科。第1志望ではありませんでした。でも、不思議と落胆はしませんでしたね。“じゃあ、日本語教師になろうかな”って。
中国は超・学歴社会。大学入試は、第4志望まで提出し、「全国大学統一入試」を受けます。1度のテストで、どの大学に進学するかが決定し、就職先や、収入など、将来がほぼ決まってしまうんです。
日本語を学ぶなら、日本語教師になろう。そう決めたのも、自然な流れでした。
本当のところ、なぜ日本語学科を志望校に選んだのか、覚えてないんです(笑)。直感でした。中国では、「スラムダンク」や「ドラえもん」など、「動漫」(日本のテレビアニメ)が大人気。日本のポップカルチャーに触れる機会が多くあったので、無意識に興味を持っていたんでしょうね。
修士号を取得、日本語教師の道へ
京都外大を知ったのは、交換留学で山梨県の大学に在学していた頃。
日本語の知識を深めるため、進学を考えていた時、「京都外大大学院に、いい先生がいるよ」と教えてもらいました。すぐに調べて連絡、お会いすることに。“どんな先生なんだろう”と、ドキドキして眠れないまま、夜行バスで京都へ向かいました。
先生をひと目見たときに運命を感じました、“指導を受けたい”って(笑)。
専門知識が学べるカリキュラムと、人間性を重視した日本語教師育成について聞き、私の心は決まりました。すぐ受験勉強を始め、2011年4月、博士前期課程言語文化コースへ入学。研究したテーマは、日本語と中国語の方向詞(位置や方向を表す語)が指す、空間把握の違いについてでした。
「对面」は日本語で「向かい」「向こう」、「旁边」は「そば」「となり」という意味です。中国では話者が見える範囲のみを指す、限定的な使われ方をしますが、日本では外国のことを「向こうの国」、隣接する都市を「となり町」など、見えていなくても使用しますよね。外国人には、この感覚がわからない。
この特有の空間把握について、論文「中国語の“对面”“旁边”と日本語の『向かい』『向こう』『そば』『となり』の意味相違に関する研究」を執筆、修士号を取得しました。同時に、日本語教師になるために「日本語教育能力検定試験」の勉強にも力を入れます。
2013年3月の修了式後、すぐに故郷の中国・福建省の厦門市に戻り、4月から現地の日本語教育機関や大学で、教師のキャリアがスタートしました。
感謝の心忘れず、懸け橋に
2015年、“厦門で一番、親身な日本語教師”をめざして、日本語学校「芝恩教育」を設立。現在、2歳になる息子を育てながら、経営と語学指導、留学の仲介など、厦門の大学と協力し、日中両国をつなげる活動を行っています。
特に力を入れているのが、日本文化の紹介や、日本人留学生たちと交流できるイベント「日本語コーナー」の企画・運営です。茶道体験やたこ焼き作り、日本人との交流など行っています。
学校名「芝恩」には、「感謝する」という思いを込めています。
実は留学時代、ホームシックになり、ひきこもる日々が続いたんですよ。そんな時支えてくれたのは、留学生だったり、教職員の皆さんでした。
これから日本に留学する生徒たちも、孤独で不安な時間を過ごしますが、必ず手を差し伸べてもらえる経験をするはず。その時感じた感謝の気持ちを忘れずに、困難を乗り越え、日本と中国を結ぶ懸け橋となる人材に成長してほしい。
日本に留学中の生徒たちは、一時帰国で、必ず私に会いに来てくれるんですよ、日本のお菓子をいっぱい持って。
懐かしい味を楽しみながら、教え子の話に耳を傾ける。これが一番、教師としてのやりがいを感じますね。