子どもたちの自己実現のために
発展途上国で教育支援
- UNICEFラオス事務所
- 上野 明菜 さん
- 英米語学科 2007年度卒業
とにかく何でもやってみる
「興味の有無に関わらず、学内外でできるだけ多くの事を学び、様々な人種の人々と交流する」。これが私の入学当初の目標でした。その実現に向けて通常の授業以外に教職課程も履修し、中高の英語教員免許を取得。また、Kyoto Gaidai Habitatの一員として、街頭募金活動に力を入れました。海外へも積極的に渡航し、オーストラリアへ1年間の交換留学や休学して2年間、シンガポールの在日本国大使館で海外勤務経験を積みました。
常に念頭にあったのは、いわゆる自分のコンフォートゾーン(ストレスや不安が無い精神的に落ち着ける場所)から抜け出して、異なる価値感を持った人々とできるだけ交流することです。プライベートでは、週末のアルバイトで貯金をしては友人と海外旅行へ出かけました。留学中には、多くの学内イベントに参加したり、1人でオーストラリア大陸を丸3日かけて列車で横断するなど、新しいことには何でも挑戦しました。知っている人のいない環境の中、1人で生活し、旅行することで、日本では経験できないであろう発見や学びを知り、多様性に対する柔軟性と異文化で人間関係を構築していく自信がつきました。
本当の教育とは?
大学卒業後は4年間教員として、大阪にある高等学校に勤めていました。教員という仕事は、私にとって今でも天職だと思っています。教科の内容を教える以上に人を育てる仕事で、様々な家庭から集まった十代の若者一人ひとりの個性と向き合い、多くの感動、葛藤、努力、挑戦や挫折などを通して、人間の成長を目の前で見ることができるからです。授業の良し悪しも生徒の表情を見れば一目瞭然で、自分への評価が瞬時に下される厳しい職業とも言えます。
そんな日々の中、「大学入試対策中心の勉強を教えることが、本当に教育と呼べるのだろうか」という疑問を抱くと同時に、かつて東ティモールの中心部を訪れた時に見た、学校へ通えない子どもたちの姿が思い浮かんだのです。「なぜ小学生くらいの子どもたちが平日の午後から道で座り込んでいるのだろう」。理由を現地の人に聞いてみると、彼らはいわゆるストリートチルドレンで家庭の経済的理由から学校に通えずにいるということがわかりました。さらに、親に働かされている子どももいると聞き、私は偶然日本に生まれただけで学校に通えましたが、彼らが初等教育さえも受けることができないのは不公平だと怒りがこみあげてきました。そして、開発と教育についてより深く学ぶためにキャリア転換することを決意し、イギリスに渡り大学院へ進学、開発教育学の修士号を取得しました。
東ティモールで感じたあの「怒り」こそが私の原点だったと思います。
子どものみならず、教員にも支援を
現在は外務省JPO(Junior Professional Officer)派遣制度を利用し、ユニセフ・ラオス事務所で教育担当官として勤務しており、現地の教育省に対し「証拠に基づいた政策立案・決定」を促すための教育データの収集、管理、利用に関しての支援を行っています。ラオスの就学率は全てのレベルで上昇してきていて、初等教育は純入学率が約85%、終了率が約80%とアクセスの拡大が改善されてはいますが、中等教育に進むにつれて就学率が下がっているのが現状です。特に都市部と地方・農村部の格差が大きく、民族間によっても大きな差があります。問題となっているのは3~5歳児の約70%が幼児教育を受けていないことや初等教育の1年生の退学、留年率が高いこと。さらに児童婚は大きな問題となっており、20~49歳までの女性の約32%が18歳までに結婚しているという家庭調査データ(2017年)もあります。その他、教室数・教員数の不足や教員の質・能力の低さ、教科書・教材不足など多くの課題があります。
このような課題を解決するために、学力調査の実施やベースライン調査等を行い、子どもたちをめぐる現状を分析・モニタリングし、どのような困難に直面しているのかをより具体的に示せるよう日々努めています。今後の目標は、引き続き東南アジアで発展が遅れている国々の教育支援に関わることで、特に教員政策に関わることです。教育の質の改善となるとどうしても子どもを中心に考えますが、同時に教員をとりまく問題も解決しなければなりません。教育支援は結果が見えるまでにとても時間のかかる分野です。しかし、子どもたちが将来自らの選択で進みたい道を選び、自己実現できるように、日々の小さな一歩が大切だと信じて、これからも取り組んでいこうと思います。