京都外国語大学・京都外国語短期大学

国際結婚でフィンランドへ
教育大国で学び続ける

  • タンペレ大学教育文化学部博士課程
  • 西村サヒ 教 さん
  • 英米語学科 2005年度卒業
  • 2020.12.15

結婚を機に北欧へ移住

京都外大の派遣留学制度を利用して留学していたアメリカの大学で、フィンランド人の主人と知り合い、卒業後に結婚。それを機に、フィンランド南西部に位置するサタクンタ地方の中心都市、ポリに移り住みました。

人口8万人ほどの小さな街ですが、日系企業があるため、20人ほどの日本人が暮らしています。やはり北国のため、冬は長くて暗く、冬至になると朝10時前にようやく明るくなって午後3時には暗くなる日が続きます。

真冬に凍った海の上で遊ぶ子ども達

移住して14年目になる現在は、サタクンタ地方の高校で外国語としての日本語、そして小学校では「継承語としての日本語*」の授業を担当しています。また、2018年からタンペレ大学教育文化学部博士課程に在籍し、外国語教育政策についての研究をしています。働きながらの研究や子育ては大変ですが、主人も貿易関係の仕事をしながら研究職に携わっているため、理解があり、家族もサポートしてくれるので助かっています。

* 継承語としての日本語
両親または片親が日本人であり、フィンランドで生まれ育った定住二世児に教える日本語。日本語を母語とし、フィンランドで移民として生活する児童に対する日本語教育とは指導内容もアプローチの仕方も若干異なる。

教育大国でのコロナ対応

2020年の始まりは、新型コロナウイルス感染症の影響で日本語教師としても学ぶことの多い春になりました。3月半ばからオンライン授業が行われていたのですが、小中学校では夏休みに入る直前となる5月末に2週間だけ通常授業が再開。息子たちが通う小学校でも、インターネットを使って修了式の様子がライブ配信されたので、フィンランドだけではなく年に1度帰省して会っている大阪の家族にもその様子を観てもらうことができました。

保護者として、また日本語教師としてオンライン授業に携わっていましたが、オンラインへの移行は比較的スムーズにできたと感じています。①各児童生徒には以前からアカウントとパソコンが学校から支給されていたこと、②生徒も教員も保護者もインターネットを介して連絡を取ったり、教材を使ったりする経験が多かれ少なかれあったこと、③各家庭でインターネットに接続できる環境が比較的整っていたこと、などがオンライン授業実施への心理的・物理的ハードルを下げていたのではと思います。オンライン授業への切り替えから学校再開に伴うコロナ対策まで、教員、生徒、そして保護者にとっても大変な春になりましたが、無事に夏休みを迎えることができ、皆ひとまずほっとしているところです。

8月に入り、保険局からから公共交通機関を利用する際などはマスク着用を推奨するという発表が出ました。しかし、やはりまだ抵抗があるのかポリではマスクをしている人はあまり見かけません。8月中旬から新年度がスタートしましたが、熱がなくても風邪の症状がある場合は登校を控えるというガイドラインが出される等、感染予防対策を取りながらの再開です。高等教育機関以外はオンラインではなく通常授業が始まり、少しずつ日常を取り戻しています。

日本語を教えながら、自身も教育学を研究

教育学研究の道に進むことになったきっかけは、フィンランド人学生に日本語を教える中で、コミュニケーション能力育成を重視した行動中心アプローチ(action-oriented approach)について学びたいと思い、トゥルク大学の移民向けの教職課程を履修したことです。このコースは、フィンランドに移住してきた移民児童の学びをサポートするための母国語教師を養成するために開講されており、外国語教授法の他にも、教育学の基礎知識・理論・方法論、また移民児童を取り巻く教育環境などを学ぶことができました。

教育学研究についての理解が深まると、教育に対する社会からの影響や教育が社会に与える影響について詳しく学びたいと思い、タンペレ大学の大学院に進学。2017年に修士号(教育学)を取得し、2018年からは博士論文を執筆しています。

大学院(修士課程)の修了式で息子との1枚

研究、日本語教育に携わる中で常に考えているのは、「社会における格差・不平等の拡大を抑えるため、外国語教育を通してできることは何か」という問いです。これは、自分自身もフィンランドでアジア系移民として生活し、移民という社会的・文化的背景を持つ友人と関わる中で、マイノリティとして生きることを少しでも経験できたからこそ得られた視点だと思います。環境の変化を肯定的に受け入れ、成長の糧にしたいと思えたのは、京都外大という多文化・多言語空間で学生時代を過ごせたことも大きいと思います。

今後は、外国語教育はコミュニケーション能力育成や異文化理解教育であるというだけでなく、言語学習を通して自分が本来持っている能力に気付き、それを引き出していく活動、つまり「エンパワーメント」でもあるという考え方を、教育社会学研究や日本語教育を通して広めていきたいです。

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