京都外国語大学・京都外国語短期大学

ジャクチョウってだれ?
不思議な縁で秘書8年

  • 作家・僧侶 瀬戸内寂聴さんの秘書 
  • 瀬尾 まなほ さん
  • 英米語学科 2010年度卒業
  • 2018.02.16

66歳差の「二人三脚」

作家の瀬戸内寂聴先生の秘書を務めて8年になります。したいことも特になく、就職先がなかなか決まらなかった4年の秋、祇園のお茶屋でアルバイトしていた高校時代の友人に「お客さんで秘書を探している人がいる」と聞き、勧められたのが寂聴事務所でした。でも「セトウチジャクチョウってだれ?尼さん?」。有名な作家とは全く知らなかったのです。「でも面白そう」と履歴書を送りました。面接の時、「私の本は読んだことある?」と先生に聞かれましたが、「ありません」と素直に答えました。高級チョコレートを食べさせてもらい、1時間ほど世間話をした後、「3月から働けるわね」とその日に採用されました。

事務所に入ってからは、先輩のスタッフさんたちにいろいろ教わりながら仕事を覚えていきました。ところが、2013年春、全てのベテランスタッフが「自分たちの給料を払うために高齢の先生に働かせるのは申し訳ない」と辞められました。突然一人になりとても心細く不安だったのですが、腹をくくるしかないと決心し、それから66歳離れた先生との二人三脚が始まったのです。食事、洗濯、掃除など身の回りの世話と、秘書としてのすべての仕事をこなさなければならなくなりました。出掛ける時も先生の体を支えながら手をつないで歩く。先生も久し振りに料理を手伝うなどして張り切り過ぎたのでしょうか、2人してはりきりすぎて一緒にダウンして、並んで点滴を打ってもらうこともありました。

手紙がきっかけで本を出版

忙しくしている先生に話しても意図が伝わらない時は、手紙に書いて渡していたのですが、その手紙の文章を先生が「死に支度」という小説の中で使ってくれたおかげで、編集者の目に留まり、本を出すことになったのです。「おちゃめに100歳!寂聴さん」(光文社)がそれ。昨年11月に出版してから今年2月13日で発行部数が11万5000部になりました。文才などあるとは思っていなかったのに、先生が「まなほの文章は素直でいい」とほめてくださったので、自由に好きなように書くことができました。

先生は僧侶ですが、お肉もお酒も大好きでよく食べるし、好きなように生きている姿は本当に生々しく人間らしい。しかも天真爛漫な少女のようで、ものすごく優しい。大好きです。いつまで一緒にいられるか分かりませんが、一緒にいる間は、ずっと笑っていてほしいと思っています。

現実に目を向け、一歩踏み出す

学生時代は自分の周りのことしか見ていなかった私。それが寂聴先生に「宇宙と自分、世界と自分、日本と自分を常に意識しなさい」と言われ続け、次第に社会の出来事や問題に広く目が行くようになりました。学生の時は想像さえできなかった世界や日本の現実も知りました。今日本では親から売春を強要されたり、性的虐待を受けている少女や若い女性が日本に多くいることを知り、現在はそうした少女らに寄り添い支援する「若草プロジェクト」の理事もしており、学ぶことばかりです。

座右の銘は「ひとつでも多くの場所に行き、多くのものを見、たくさんの人に出会うこと」。悩んでばかりいないで何事もとりあえずやってみる。まずは思い切って一歩踏み出すことが、人生を大きく変えるきっかけになると思います。

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